エレファントカシマシ最大のヒット作「今宵の月のように」。本記事では、「今宵の月のように」の歌詞の意味や制作背景を解説する。また、ヒットした要因も当時のエレカシの"路線変更"から推測し解説する。
スポンサーリンク
そもそもエレカシの「今宵の月のように」って？
出典：https://www.amazon.co.jp
1997年7月30日に発売した、エレファントカシマシの15thシングル。
フジテレビ系ドラマ『月の輝く夜だから』の主題歌である。
エレカシ初のドラマタイアップ曲だった。
もともと、ドラマプロデューサーは、『月の輝く夜だから』は女性が主人公なので、女性目線の曲をエレカシに依頼した。
しかしながら、宮本は女性目線の曲をなかなか上手く作ることができなかった。
何曲か制作したものの、全てボツになってしまったという。
それでも宮本はめげることなく、アコースティックギターで制作した曲を、プロデューサーの前で弾き語りしてみせた。
すると、その曲がプロデューサーにハマり、見事「今宵の月のように」は完成することになる。
聴いてもらうと分かるが、歌詞に"俺"が登場したりと、「今宵の月のように」は男性目線の曲だった。依頼内容にはそぐわなかったにも関わらずプロデューサーが採用したのは、やはり本作に惹きつける魅力があったからだろう。
『月の輝く夜だから』自体、そんなに視聴率はなかったものの、主題歌の「今宵の月のように」はヒット。
結局、「今宵の月のように」は累計売上８０万枚を越え、オリコンチャートでは最高順位８位を記録。
累計売上も順位も、どちらもエレカシのシングル史上最大のヒット作となった。
メモ
ちなみに、エレカシのシングルで最高順位が再び一桁台を記録するのは、「今宵の月のように」から１８年後の2015年発売の47th「愛すべき今日」（最高順位９位）。「今宵の月のように」がヒットした後も、エレカシは売れない時期が続いたり、事務所を変えたりと、紆余曲折があったのだ。
「今宵の月のように」がヒットした要因とは？
「今宵の月のように」が８０万枚もヒットした要因は、もちろん曲自体が素晴らしいから。
でも、ヒットしたもう一つの要因として、エレファントカシマシが路線変更を試みたからだと私は思う。
もともと、エレカシというのは、世間よりも自分の作りたいものを意識した作品をつくることが多かった。
実際、ライブではボーカルの宮本浩次が客席に向かって「うるせぇ！」「勝手に立つな！」と暴言を吐いたりもしていたという。
まあ宮本なりのパフォーマンスなのかもしれないが...
それゆえに、コアなファンはついても、世間一般に受け入れられることはなかった。
売上げも散々で、事務所からは契約を打ち切られ、エレカシは追い込まれていた。
そんな中で、宮本は当時売れていたミスチルや小沢健二を聴いて、
「売れる曲を作らないと、ちゃんと世間に聴いてもらえる曲を作らないと、意味が無い」
と思い知ったという。
そして、1996年、ポニーキャニオンという新たな事務所でエレファントカシマシは再デビューをし、「悲しみの果て/四月の風」という万人受けしやすいポップスを世に送り出した。
「悲しみの果て/四月の風」は好評で、さらにメディア露出を増やしたことで、エレカシへの注目は集まった。
「今宵の月のように」は、まさにエレカシが大衆向け路線へと舵を切り始めた最中の１曲だったのだ。
もし、エレカシがまだ世間を意識しない作品を作り続けていたら、「今宵の月のように」は生まれていなかっただろう。
ただ、コアなエレカシファンの一部には、1996年「悲しみの果て/四月の風」からの大衆向け路線が嫌だという人もいる。メジャーになると、今までのファンのニーズと世間一般のニーズのどちらも満たす音楽活動というのは難しいんだなぁ..。
スポンサーリンク
「今宵の月のように」の歌詞の意味とは？
【今宵の月のように/歌詞の意味①】冒頭の歌詞から、共感することができる普遍性が存在
「今宵の月のように」は、曲名にも入っているが、"月"が印象的に使用されている。
これはタイアップ先のドラマのタイトルが『"月"の輝く夜だから』だからだと思われる。
とはいえ、エレカシの楽曲にはよく"月"が使用されている（"太陽"も）。
例えば、「月の夜」「月夜の散歩」「月と歩いた」などなど。
実は、宮本は散歩が趣味らしく、その際の情景が作詞の源になっている。
そう考えると、エレカシと外の世界（月や太陽）を描いた曲は相性が良くて、そんなエレカシに『"月"の輝く夜だから』の主題歌を依頼したプロデューサーは有能だ。
冒頭の歌詞を引用したので見てほしい。
くだらねえとつぶやいて
醒めたつらして歩く
いつに日か輝くだろう
あふれる熱い涙
当時の宮本の心境を忠実に反映している歌詞だなぁと私は思う。
曲中では、何に対して"くだらねえ"とつぶやいているのか分からない。
でも、前述の通り、自分のやりたい音楽をやっても世間は見向きもしなかった経験を持つエレカシだからこその歌詞だと推測できる。
世間が求めているのは耳ざわりの良いポップス。
でも、いつの日か自分のやりたい音楽に世間は振り向いてくれるかも....。
そんな宮本の想いを込めた歌詞なのだ。
とはいえ、これらはあくまで深読みであって、本作は抽象的な歌詞なので、普遍性があり誰もが共感することができる。
例えば、歌詞には"君"という存在が登場するが、恋人なのか、友達なのか、全く分からない。だからこそ、人それぞれの"君"を当てはめることができる。
誰だって、生きていれば、くだらないと思うことだってあるし、いつか見返してやる！という想いを抱えている。
そのため、多くの人がこの冒頭の歌詞から「今宵の月のように」に共感を寄せることができる。
これ以上無いほど完璧な掴みだ。
メモ
音楽評論家の小貫信昭は「いきなりサビから始まる冒頭の“♪くだらねぇ”の“く”からして、さっきバンカラと書いたが、実に気っぷのいい耳障りである。途中の“ポケットに手を”の“ポ”も、これと同様だ。」と語っている。確かに、"く"や"ポ"というのは結構耳ざわりが良い。発音の面からしても、非常に優れた掴みなのだ。
【今宵の月のように/歌詞の意味②】現状に不満を抱きつつも、希望は捨てていない
歌詞には、"夏の風"や"真夏の夜空"といった夏を思わせる歌詞が登場する。
「今宵の月のように」は７月発売だったので、舞台は夏なのだ。
もちろん発売日を考慮してのことなのだろうが、個人的には、本作は夏が舞台だからこそ良いと思う。
理由は２つ。
- 宮本の散歩が元になっている歌詞なので、必然的に手軽に散歩できる時期でないとならない。秋から冬にかけてだと、寒いので、散歩する人は少ない。そのため共感しづらくなる。また、春だと、いかにも"卒業ソング"として捉えられてしまいがちだ。つまり、舞台が夏以外だと、普遍性がなくなり共感しづらくなってしまう。
- 夏は暑いので、外に出ることが増える。そのため、月を見る機会が増える。つまり、「夏＝月をよく見る時期」だから共感しやすくなっている。
音楽というのは、「共感できる＝良い曲」とは限らない。
共感できなくても、良い曲はいくらでもある。
でも、「今宵の月のように」はやっぱり内容に共感できるからこそ素晴らしいのだ。
現状に満足をしている人は、どのくらいいるだろう。
ほとんどの人が、こんな暮らしは嫌だとか、学校が嫌だとか、会社が嫌だとか、不満を感じていると思う。
「今宵の月のように」の主人公も同じだ。
"くだらねえ"とつぶやいたり、もういない"君"との日々を思い出したり、"街の灯り"が悲しい色に見えてしまったり...。
このように、主人公が現状に不満を抱いていることは、歌詞を見ると一目瞭然。
それでも、希望は、捨てていない。
新しい季節の始まりは 夏の風 街に吹くのさ
明日もまたどこへ行く 愛を探しに行こう
いつの日か輝くだろう 今宵の月のように
上記の引用した歌詞には「不満な現状を抜け出して、思い描いた暮らしを手に入れよう」という希望を感じ取れる。
このような希望に満ちた歌詞があるから、聴き手は共感するだけでなく、背中を押されたような気持ちになることができる。
さらには、エレファントカシマシという不遇の時代を何年も味わってきたバンドだからこそ、とてもとても説得力があるのだ。
スポンサーリンク
まとめ
エレファントカシマシの知名度を一気に上げ、自身最大のヒット作となった「今宵の月のように」。
多くのアーティストがカバーしており、今なお愛され続けている。
そして、多くの人々が本作に救われ、前を向けているのではないのだろうか。
私もその一人だ。
生きてると、不満だらけでしんどくなることがある。
さらに、不満がなくなっても、また次の不満が生まれる。
そんなとき、「今宵の月のように」は、とてつもないエネルギーをくれる。
どん底にいても、救いの手を差し伸べてくれる。
「今宵の月のように」が、いつまでも後世に伝わり、ますます人々を救ってくれることを願う。
最後までご覧いただきありがとうございました。